2020年2月20日、イタリア旅行の後半、オルヴィエートからのバスの帰り道、
ボブ・ディランの「親指トムのブルース」が無性に聴きたくなり、iPhoneを取り出して曲をかけた。
窓の外を見ると、西日が遠方の丘に落ちていく。
イタリアの車窓を眺めながら聴くボブ・ディランの音楽は格別だ。
今までの人生を精算するように、脳の中をディランの歌が駆け抜ける。
バスはトラックを追い越し、アクセルを踏み、疾走する。
駆け抜けろ、駆け抜けろ、どこまでも。
高揚した意識の中で叫んでいる。
これからの人生、新たな疾走を求めて。
続いて「ライク・ア・ローリング・ストーン」をかけた。
夕陽が地平線に沈みかけ、赤く染め上げている。
魂は静かに燃え上がり、目の前の光景はさらにハイスピードで駆け抜けていく。
夕陽に向かってカメラを向けると、こちらの意識が伝搬したのか、二つの夕陽が燃え盛るように写った。
ふたつの太陽。
二つの人生。
そういうのがあってもいい。
今まで過ごしてきた手垢まみれの人生と、これから過ごす自転車を漕いで風を感じる時間。
これから出会う風景や人々を夢想する。
人生の旅は、また新たに始まる。
(終)
2020年3月1日
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