念願と祈願の富士山五合目

サイクリング

8月12日(水)から16日(日)は夏休みで5連休の休暇を取っている。
元々は長野・松本あたりを1~2泊してサイクリングをしようか?などと夢想していた。
しかし7月の豪雨もあり8月に入ってから状況をみて行先を決めようと思っているうちに梅雨明け後は猛暑の日々。2日連続で終日のサイクリングは体力が持たないな、と冷静になり、そういう旅は秋に持ち越すことにした。
代わりに思い付いたのが富士スバルラインだ。
富士スバルラインのサイクリング・イベントは日本最大で昨年までは10,000名も参加者がいる。物凄い人数だ。今年はコロナウイルスの影響で人数限定で9月に行われるようだ。
気軽にサイクリングを楽しみたい自分としては、タイムに固執するよりは、ふらっと乗りたい。
そう思い、先週からこの夏休みのどこかで走ろうと決めた。

初めての富士山五合目。
勝手がわからないまま、富士山五合目の天気予報サイトがあることを知り、毎日見ていた。
8月8日(土)9日(日)は晴天だったようだ。この日は自分の自転車のホイール交換の日だったのでいけなかった。次に天気がよさそうなのは14日(金)だったので、この日を予定していた。
しかし11日(火)の昼間、天気予報を見ると、12(水)がまずまずの天候で13日(木)以後は雨になっていた。
急遽、富士山行は翌日の12(水)に決めた。
心の準備ができていなく、少し慌てる。

朝4時過ぎに起床。最近は東名の渋滞に巻き込まれないよう、家を出るとコンビニで朝食を買い、海老名SAに着いてから食べるようにしている。幸い渋滞もなくスムーズについた。
その後も渋滞は特になく富士吉田ICを降りて富士山パーキングに到着した。
ここで再び富士山五合目天気予報を見ると、本日午後からは雨のようだ。
天気予報は頻繁に変わる。しかし午前中の走行なので大丈夫だろうと思い、車から出た。
その時、軽いぎっくり腰のような痛みが出た。”こんな時に“と嘆いたが、ゆっくり柔軟運動をしていると、あまりひどい痛みにはなりそうになく、自転車は漕げそうだ。
準備をして走り出すことにした。



向かう先の富士山は青空を背景に悠然とした姿を見せている。
楽しみだ。
十分下調べをしたつもりだったが、走り出して早速、意外な点に気づく。
駐車場を出てから富士吉田IC西交差点から、富士スバルライン料金所手前の胎内洞窟入り口交差点までの2km超の登り坂が思いのほか勾配があったのだ。
大体5~8%ぐらいの傾斜がずっと続いていた。
“料金所から1合目までは傾斜がきついので飛ばし過ぎないように“とネット情報であったが、それより手前数キロからこんな坂が続くとは。
もちろんウォーミングアップとしてゆっくり走っていったが、最初から軽い洗礼を受けた。

胎内洞窟入り口を過ぎると間もなく料金所のゲートがあり、そこから富士スバルラインがスタートするのだが、料金所手前か胎内洞窟入り口あたりで少し休んでから走ればよかった、としばらく走ってから後悔し始めた。
ぎっくり腰気味の上に、一眼レフを入れたリュックを背負っている。
料金所過ぎて2kmぐらいで腰が痛くなってきた。
あまりに早すぎる腰の痛みだ。自分は腰が痛くなるととたんに速度が遅くなる。
初めての富士スバルイラインを走る喜びもつかの間、その後はずっと腰の痛みとの闘いの道のりだった。

そうはいっても初めて見る道の景色はとても新鮮だ。
コロナウイルスの影響で、富士スバルラインはマイカーの規制があり、車は非常に少ない。
自転車で走る人にとっては極上の環境だ。
青空を見上げながら富士山を登っていく。体力的に今年は無理か?と思っていたこの道のりだが、今年の夏にこうやって走れている喜びは何にも代えがたい。
骨折が治ってトレーニングを始めてから半年ほどだ。
少しずつペダルを漕いで25kmほど富士山をゆっくり登っていく行為は、自転車に興味がない人にとっては苦行以外の何物でもないだろう。
漕いでいる当人にとっても、楽しみ一色では全然ない。
料金所から3kmほど走っても。まだ全行程の1/8程度だ。
腰が痛くなっているし、まだ1/8と考えると嘆きたくなる。
それでも漕ぎ続けるしかない。
今日は簡単にあきらめるわけにはいかない理由があるのだ。

一合目下駐車場を見送って、左右に曲がる道を登っていく。
初めて走る道は、未知の不安があるのであれこれ考えることで気が紛れる。
長時間の峠の登りは、延々と続く登り坂の心理的な圧迫感と単調な景色による”退屈”との闘いだ。腰もかなり痛くなったので、もともと最初の休憩に予定していた樹海台駐車場(10.5km地点)で休むことにする。
樹海台の眺めは良い。
富士山に来た実感が湧いてきた。

ロードバイクに乗って登ってくる人はちらほら見かける。男女ペアの人達も数組。半分以上はしょっちゅうここを走っているようなオーラを出しているアスリートな人たちだ。
再びマイペースで走り出す。
だんだん雲行きが怪しくなってくる。
三合目の看板を過ぎる。ここでようやく半分ぐらいの道のりだ。
何回か登った大観山までの椿ラインが15kmほどだが、やはり15kmと25mは感覚が違う。
完走できるか?の感触すらわからないまま、ひたすらペダルを漕ぐ。

17.3km地点の大沢駐車場で二度目の休憩。ここでは遠方の景色だけでなく、道路にまで霧が立ち込めてきた。こういう景色に慣れてきたものの、初めて走る道で前方が霧で見えなくなるのはあまり気持ちの良いものではない。

気温も下がってきているせいか、あまり長時間休むと体が冷えそうなので、早々に走り出す。
ここから21.5km地点の奥庭自然公園までは再び8%程度の坂が時折現れる。
心臓も足も余裕があるのに、腰痛が足の歩みにブレーキをかけ続ける。
その結果、終始めりはりのないスピードでのぼりつづけることになる。
まあ、今日はいい。
富士山を走れているし、25kmを走る感覚がわかればいいのだ。
そして富士山五合目にたどり着かなければ。

奥庭自然公園を過ぎると2km以上はほぼ平坦な道になる。
体力自体は余力があるので、ギアを重めに入れてスピードを出す。
いよいよ五合目が近づいている。
周りは相変わらず真っ白で綺麗な景色は期待できない。
せっかく腰に負担をかけて一眼レフを背負ってきているのに。
トンネルを3つ超えると最後の最後で再び上り坂が待ち受けている。

ここは自動車道だが、サイクリストのために最後の試練を与えるために作られた道なのか?と思わせるほど絶妙な作りだ。
前半で傾斜のきつい坂が用意されていて、計画性のない者は早々に体力を消耗させられる。
かといって勾配10%を超える激坂があるわけでなく、坂の勾配は終始さざ波のように変化を織りなしている。
日本中のサイクリストが虜になる気持ちがよくわかる。

最後の坂を登りきると、ついに五合目に着いた。
アスリート風情の若いサイクリストが笑顔で声をかけてくれた。
“もうへろへろですよ”と言葉を返した。


マイカー規制のおかげで、観光バスに乗ってきた人たちとサイクリストしかいない。
かなりまばらな印象だ。
山の上は雲がかかり全く見えない。


道路の向こう側の景色も、手前の木々の向こう側は真っ白だ。
到着して五合目の案内の前で自転車の写真を撮ると、自転車に鍵をかけてまっしぐらに左手の奥へ歩いた。

今週初めに音楽愛好家仲間の年長の知人が急遽、手術で入院という知らせがあった。
どうしたらよいか?考えあぐねた末に、この富士山五合目にある富士山小御嶽神社でお守りを買って送ることに決めた。
小御嶽神社でその知人と自分の家族の健康を祈り、お守りをいくつか買った。



そしてお土産売り場で、事前にネットで調べて目をつけていたのが、mont-bellと富士山五合目の共同企画でここ限定(らしい)のマグカップだ。

なにか富士霊峰の霊気も少しはあるような気がして、これで飲み物を飲めば、健康的な気分になりそうに思えた。
知人の分と、ついでに自分の分と二つ購入した。
リュックは一眼レフ以外にお守りやマグカップを入れるために背負ってきたのだ。

せっかくなので他の店内も回ってみる。
買い物をすると、自分のバッグを見て“ビアンキの自転車乗ってるの?いい自転車ね”とお店のおばさんが話しかけてくる。
きっとサイクリストの客が多いのだろう。
ドライブ観光客が激減しているので、よけいサイクリスト客は目立つに違いない。
他にも“どれぐらいかけて登ってきたの?”と声をかけてくる人もいた。

綺麗な眺めを見られなかったのは残念だが、東京は35°の猛暑の中、20°以下のひんやりとした空気の非日常的な空間に来れたのは大満足だ。
しかも自分の足で。



帰りは45分、ひたすら下りの道をブレーキをかけながら下り続けた。
こんな長時間、下り続けるのは初めてだ。
こんなところにも富士山のスケールの大きさを感じさせられる。
下りきると急に雨が降り始めた。

五合目までの道のりだったが、富士山が日本人だけでなく世界中の旅人に愛される理由を垣間見た旅だった。


(終) 2020年8月14日

コメント

  1. […] HPでも書いた富士スバルライン。http://travelingroad.halfmoon.jp/cycling/mtfuji-subaru01/ […]