醒めたコーヒーの味はほろ苦く

のんびり街を行く

2020年4月11日


昨日、大都市圏を中心に非常事態宣言が出された。
私は既に1か月、在宅勤務が続いているが、終わりの見えない新たな戦いがまだ始まったばかりなのだろう。
自宅の周りのランニング、あるいは自宅数百メートル圏内をぐるぐる走って健康維持に努めているが、後は専ら自宅に籠って久しい。

今日は久しぶりに最寄り駅の近くまで歩いてみた。

 
地元の喫茶店「陽のあたる道」が気になり、久しぶりに立ち寄った。
お店こそ営業しているが、今は豆売りとテイクアウトのみだ。
このお店はフォーク・ソング、アコースティック・ギターの音楽の演奏会を定期的にやるお店として知る人ぞ知る存在だ。
‘60年代、’70年代フォークを中学校時代に熱中して聴いていた私は、マスターとも音楽の話が合い、開店後から定期的に訪れている。
ここのマスターは脱サラ組で、長年のサラリーマン生活を終えてから、珈琲修行を得て開業した。店は夫婦で切り盛りして、几帳面なマスターの性格のままに、いつ行っても綺麗で明るい雰囲気で迎えてくれる。
店内に入ると、マスターそして奥さんはいつもの笑顔で迎えてくれた。
机と椅子がたたんでいる姿以外はいつもと変わらない。
6月以後の店内演奏会の予定の説明会をしてくれた。
“ただ6月はどうかな?”と悔しそうに付け加える。

ひとしきり雑談をしてテイクアウトの珈琲をもらい、店を出た。
うがいをしていないですぐに飲むのも気が引け、自宅まで口をつけずに持ち帰ることにした。
こんなところに非日常を感じる。
すっかり冷えてしまったイタリアン・ブレンドの珈琲。
テイクアウトでもらったコップのままなので味気ない。



しばらく眺めて、数口飲み、味を噛みしめる。
苦味の感触と共に、世界中が味わっている苦境に想いを馳せる。

人類は今まで、コレラ、結核、ペスト等様々な疫病による破滅的な被害を被ってきた。
その中でもペストとの闘いは壮絶だった。
紀元前の古代ギリシャ時代から数百年おきにヨーロッパを中心に猛威をふるい数十万規模の死者を出している。
イタリアも例外でなく何度も大打撃を受けている。
1347年頃からペストが大流行し1420年にかけて実に人口の8割が死亡した。
当時の医療技術では菌の特定も有効な薬や治療法もなく、ひとたび発症すれば、家族はなすすべもなく遠巻きに死を見守るしかなかった。
当時の光景を想像すると、ただただいたたまれない気持ちになる。

イタリアは今、コロナウイルスによる世界最大の死者数を出し、闘いの最中だ。
米国も死者数はイタリアに迫り、国を挙げて防衛にあたっている。
日本は感染者数がじわりじわりと真綿で首を絞めるように日々増えている。
長い歴史を乗り越えてきた各国の新たな戦いはまだまだ続く。

次に「陽のあたる道」にコーヒーをテイクアウトで買いに行くときは、ボトルを持参しよう。
自宅に持ち帰る時間があっても醒めることなく、おいしく飲めるはずだ。


(追伸)後日、ギターメイカー・Paul Reed Smithから何かの記念でもらったタンブラーを持って 「陽のあたる道」に。イタリアン2杯を入れてもらってきた。
マスターも元気そうでなにより。
早くお店でフォーク談義をしながらゆっくりコーヒーを飲める日を楽しみに待つ。


(終)


2020年4月11日

コメント